多項式の最小分解体のガロア群

次数の低い多項式の最小分解体のガロア群は比較的簡単に決定できます。ここでは判別式を使う方法を紹介します。

まず、K を標数が 2 でない体とする(標数 2 では使えない)。K の代数閉包 Ω を一つ用意しておく。

K 係数の n 次の既約なモニック多項式 \( f(x) = x^n + a_1 x^{n-1} \cdots + a_n \) について、K 上分離的であるとし、Ω の中での解を \( \alpha_1, \cdots, \alpha_n \) とおく(モニック性は本質的ではない)。\( L = K(\alpha_1, \cdots, \alpha_n) \) を最小分解体とする。このとき、差積判別式をそれぞれ

$$
\Delta(f) = \prod_{i < j} (\alpha_i - \alpha_j), \\
D(f) = \Delta(f)^2
$$

と定義する。

さて、ガロア群 \( \operatorname{Gal}(L/K) \) の元 \( \sigma \) は \( \sigma(\alpha_i) = \alpha_j \) で決まり、n 次の置換とみなせるので、対称群 \( \mathfrak{S}_n \) の部分群と自然にみなせる。こうしたとき、明らかに

$$ \sigma(\Delta) = \operatorname{sgn}(\sigma) \Delta $$

が成り立つ( f は省略した)。ただし sgn は置換の符号である。

ここで、n 次の交代群を \( A_n \) と書くと、ch K ≠ 2 と f(x) が既約かつ分離的であることから差積が 0 でないことに注意して

\( \sigma \in A_n \Leftrightarrow \sigma(\Delta) = \Delta \)

となる。したがって

\( \operatorname{Gal}(L/K) \subseteqq A_n \)

\( \Leftrightarrow \Delta \in L \) は \( \operatorname{Gal}(L/K) \) で不変

\( \Leftrightarrow \Delta \in K \)

\( \Leftrightarrow D = \Delta^2 \in K^2. \)

以上で次の定理を得た :

定理
標数 2 でない体 K と K 上の既約で分離的な多項式 f(x) について、K 上の最小分解体を L とおく。
\( \operatorname{Gal}(L/K) \subseteqq A_n \Leftrightarrow D \in K^2 \)

これの簡単な応用として、\( \mathbb{Q} \) 上の既約な3次多項式 \( f(x) = x^3 + ax + b, \ \ a > 0 \) の最小分解体 L のガロア群が \( \mathfrak{S}_n \) であることを示せます。
D は終結式による表現もあり、終結式を R(f, g) で書くことにすると、

$$ \displaystyle D = (-1)^{ \frac{1}{2} n (n-1) } R(f,f') $$

が成り立ちます。頑張って終結式を計算すると、\( 4a^3 + 27b^2 \) となります。\( a > 0 \) としているので、判別式 \( D \) は \( n = 3 \) より負になります。これは \( D \not\in \mathbb{Q}^2 \) を意味しており、したがって定理から \( \operatorname{Gal}(L/\mathbb{Q}) \) は交代群の部分群ではありません。

一方、与えられた多項式は3次で既約なので \( |\operatorname{Gal}(L/K)| = [L : K] \geqq 3 \) でなければならず、また、3次対称群の部分群なので \( \operatorname{Gal}(L/K) = \mathfrak{S}_3, A_3 \) であり、結局今の議論で、

\( \operatorname{Gal}(L/\mathbb{Q}) = \mathfrak{S}_3 \)

がわかります。