Monsky の定理 − その2 (付値)

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ここでは付値についての準備をします。少々長くなりますがお付き合いください。

体 \( K \) と全順序アーベル群 \( ( \Gamma, < ) \) 、すなわち \( a \leq c, \ b \leq d \Rightarrow a + b \leq c + d \) となる群について、写像 \( v : K \rightarrow \Gamma \cup \{ \infty \} \) が(加法)付値であるとは、以下の条件を満たすことを言う :

1. \( v(x) = \infty \Rightarrow x = 0 \)
2. \( v(xy) = v(x) + v(y) \)
3. \( v(x + y) \geq \operatorname{min}(v(x), v(y)) \)

有理数体 \( \mathbb{Q} \) から整数 \( \mathbb{Z} \) への付値で、整数 \( n \) に対して \( \operatorname{ord_p} (n) \) を素数 \( p \) で割り切れる回数とし、\( \displaystyle \frac{a}{b} \in \mathbb{Q} \) に対して \( \displaystyle v_p \left( \frac{a}{b} \right) = \operatorname{ord_p}(a) - \operatorname{ord_p}(b) \) と定めるとこれは付値になります。

付値に対して「付値環」というものを対応させることができます。\( v : K \rightarrow \Gamma \cup \{ \infty \} \) が付値であるとするとき、\( R = \{ x \in L \ | \ v(x) \geqq 0 \} \) とすると簡単に分かるようにこれは局所環になり、任意の元 \( x \in K \) について \( x \in R \) または \( x^{-1} \in R \) が成り立ちます。付値環は自明に整域であることが分かります。

加法付値があるのでもちろん乗法付値もあります。定義は以下の通りです。

体 \( K \) について、写像 \( | \cdot | : K \rightarrow \mathbb{R} \) が乗法付値であるとは、以下の条件を満たすことを言う :

1. \( |x| \geq 0, \ |x| = 0 \Rightarrow x = 0 \)
2. \( |xy| = |x| \, |y| \)
3. \( |x + y| \leq |x| + |y| \)

さらに、\( |x + y| \leq \operatorname{max}(|x|, |y|) \) を満たすとき、非アルキメデス的付値と言う(この条件から 3 は導くことができる)。

非アルキメデス的乗法付値 \( |\cdot| \) に対し \( v(x) = - \log |x| \) とすると加法付値になり、逆に加法付値 \( v \) に対し \( |x| = e^{-v(x)} \) とすると非アルキメデス的乗法付値になります。先ほどの \( v_2 \) によって \( |x|_2 = 2^{-v_2(x)}\) で定義するとこれは乗法付値です。これを 2-進付値 と言います。

ここからは乗法付値の拡大について考察します。一般論を展開するので退屈だと思った方は、2-進付値を、乗法付値の定義を崩すことなく \( | \cdot |_2 : \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \) に拡張することができることを認めてもらえさえすれば先に進んでも全く問題ありません。



体の拡大 \( L/K \) と非アルキメデス的乗法付値 \( | \cdot | : K \rightarrow \mathbb{R} \) を考える。一般的な場合を証明する前に、まずは \( L = K(t) \) が単純拡大である場合を考察しよう。\( t \) が代数的である場合と超越的である場合に分けて考える。

まず超越的である場合から。まず \( f(t) = a_0t^n + a_1t^{n-1} + \cdots + a_n \in K[t] \) に対してガウスノルム \( | f(t) | = max_i( |a_i| ) \) と定める。次に \( | f(t) / g(t) | = |f(t)| - |g(t)| \) とすればこれは well-defined である。これが実際に非アルキメデス的乗法付値であることを示そう。

\( f(t), g(t) \in K[t] \) として示せば十分である。なぜなら \( \mathbb{Z} \) から \( \mathbb{Q} \) への拡張と全く同じだからである。
\( f(t) = a_0 x^n + a_1 x^{n-1} + \cdots + a_n, \ g(t) = b_0x^m + b_1x^{m-1} + \cdots + b_m \) とおく。
定義の 1 は明らか。次に 2 について、\( | f(t) | = \operatorname{max}_i( |a_i| ) = |a_k|, | g(t) | = \operatorname{max}_j( |b_j| ) = | b_l | \) として、\( f(t)g(t) \) の各係数の項はみな \( a_i b_j \) という形である。\( | a_i b_j | \leq \operatorname{|a_i|, |b_j|} \leq \operatorname{|a_k|, | b_l |} \) である。ここで \( | \cdots | : K \rightarrow \mathbb{R} \) は非アルキメデス的なので定義を使うと、\( f(t)g(t) \) の係数の絶対値はみな \( max(|a_k|, |b_j| \) 以下である。ここで定め方より \( |f(t)g(t)| \leq max(|a_k|, |b_j|) = max(|f(t)|, |g(t)|). \) 逆に、 \( k+l \) 次には \( a_k b_l \) という項があるのでその次数の絶対値を取ると再び非アルキメデス性より \( |f(t)g(t)| = |a_k||b_l| .\) 最後に非アルキメデス性についてはほぼ自明なので省略する。

次に、代数的である場合だが、これはここで紹介するにはかなり長いのでここでは省略させてもらう。

単純拡大の場合に付値の拡大が可能なことをひとまず認めて示していこう。一般の \( L/K \) について、それの中間体とその上の付値の組 \( (F, |\cdot|) \) で、付値を \( K \) に制限すると与えられた付値と一致するようなもの全体のなす集合に対して、\( (F_0, |\cdot|_0) \leq (F_1, |\cdot|_1) \overset{\mathrm{def}}{\Longleftrightarrow} F_0 \subseteq F_1, |x|_0 = |x|_1, (x \in F_0) \) で半順序を入れる。ツォルンの補題を使うことで極大元が存在することが分かる。極大元 \( (F, |\cdot|) \) が、\( F \subsetneq L \) なら \( t \in L - F \) を取ることができて先ほどの議論のように付値の拡大をすれば極大性に矛盾させることができ、よって付値の拡大が存在することがわかった。


これで、ようやく準備が整いました。次からはいよいよ証明に入って行きます。