Monsky の定理 − その3 (証明)

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ここではいよいよ証明に入って行きます。まず前回の議論から、2-進付値の拡張 \( |\cdot|_2 : \mathbb{R} \rightarrow \mathbb{R} \) を固定しておきます。面倒なので添字の 2 は省略します。ここからは座標平面で考えましょう。まず座標を以下のように三つに塗り分けます :

\( S_1 = \{ (x_1,y_1) \in \mathbb{R} \ | \ |x_1| < 1, |y_1| < 1 \} \)
\( S_2 = \{ (x_2,y_2) \in \mathbb{R} \ | \ |x_2| \geq 1, |x_2| \geq |y_2| \} \)
\( S_3 = \{ (x_3,y_3) \in \mathbb{R} \ | \ |y_3| \geq 1, |y_3| > |x_3| \} \)

補題を一つ用意します。

上の塗り分けについての完全三角形の面積を \( S \) とすると \( |S|_2 > 1 \) である。
三つの頂点を \( (x_1, y_1) \in S_1, \ (x_2, y_2) \in S_2, \ (x_3, y_3) \in S_3 \) としよう。ここで三角形を \( (x_1, y_1) \) が原点になるように平行移動することによっても一般性は失われない。実際
\( 1 \leq |x_2| = |x_1 + (x_2 - x_1)| \leq |x_2 - x_1| \) であり、これより \( |y_2 - y_1| \leq \operatorname{max}(|y_2|, |y_1|) \leq |x_2| \leq |x_2 - x_1| \) も得られる。また \( 1 \leq |y_3| = |y_1 + (y_3 - y_1)| \leq |y_3 - y_1| \) でありこれより \( |x_3 - x_1| \leq |x_3| < |y_3| \leq |y_3 - y_1|. \)

さて、\( \displaystyle S = \frac{1}{2} |x_2y_3 - x_3y_2| \) (通常の絶対値)で与えられる。よって \( \displaystyle |S|_2 = \left| \frac{1}{2} \right|_2 |x_2y_3 - x_3y_2|_2 = 2|x_2y_3 - x_3y_2|_2. \)

ここで、\( |x_2y_3|_2 = |x_2|_2 |y_3|_2 \geq 1, \ \ |x_2|_2 |y_3|_2 > |x_3|_2|y_2|_2 = |x_3y_2|_2 \) である。一般に \( |A|_2 > |B|_2 \) のとき、\( |A - B|_2 \leq |A|_2 = |B + (A-B)|_2 \leq \operatorname{max}(|B|_2, |A-B|_2) \) であり、\( |B|_2 > |A-B|_2 \) とすると \( |A|_2 \leq |B|_2 \) が得られるが矛盾するので \( |B|_2 \leq |A - B|_2 \) である。ここで \( |A - B|_2 \leq |A|_2 \leq |A - B|_2 \) を得たので、\( |A - B|_2 = |A|_2. \)

ゆえに、\( 2|x_2y_3-x_3y_2|_2 = 2|x_2y_3|_2 \geq 2 > 1 \) であり補題は示された。\( \Box \)

さて、いよいよ Monsky の定理の証明です。

(Monsky, 1970) 正方形が n 個の等積な三角形に分割されるとき、n は偶数である。
正方形の頂点を \( (0,0), (0,1), (1,0), (1,1) \) として、n 個の三角形による分割が与えられているとする。このとき、正方形の周の上にある 12-辺は、\( (0,0), (1,0) \) を結ぶ辺にしか現れない。\( (0,1), (1,1) \) を結ぶ辺では \( |y|_2 = 1 \) であり 1 で塗られた点がなく \( (0,0), (0,1) \) を結ぶ辺では \( |x|_2 < |y|_2 \) ゆえ 2 で塗られた点がなく、\( (1,0), (1,1) \) を結ぶ辺では \( |x|_2 = 1 \) より 1 で塗られた点がない。
\( (0,0), (1,0) \) を結ぶ辺では \( |y|_2 = 0 \) ゆえ 3 で塗られた点はない。よってこの辺の上では 12-辺しか存在しない。ゆえに \( (0,0) \) は 1 で塗られていて、 \( (1,0) \) は 2 で塗られているから、12-辺 は奇数個存在しなければならず、Sperner の補題より完全三角形は少なくとも一つあり、それの面積を \( S \) とすると前の補題から \( |S|_2 > 1 \) である。ここで、等積であることを使うと \( \displaystyle S = \frac{1}{n} \) なので \( |n|_2 < 1 \) であることが分かる。 もし \( n \) が奇数なら \( |n|_2 = 1 \) であるから矛盾する。よって \( n \) は偶数でなければならない。\( \Box \)


少し長かったですが、これで証明が終わりました。なんとも神秘的な証明です。今の所この Sperner の補題と 2-進付値を使う証明以外のものが知られていないということがよりダイヤモンドのような神秘的な定理にしているのでしょう。



[註] 途中で選択公理を使って付値を拡張しましたが、この証明に選択公理は必要ありません。具体的には三角形分割の座標を全て有理数体に添加したものを考えるときこの体は有理数体上で有限生成なので帰納法で付値の拡大をすることができることを証明できます。そして Monsky の定理の証明の中では付値はそれで十分です。